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東京地方裁判所 昭和47年(ワ)4863号 判決 1977年12月21日

原告 松倉恒夫 外一〇五名

被告 プリンス観光ホテル株式会社

被告補助参加人 戸井百合子

主文

一  原告らの請求はいずれもこれを棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告らに対し、別紙物件目録二記載の建物について、横浜地方法務局神奈川出張所昭和四一年九月二四日受付第四五三四一号所有権保存登記の抹消登記手続をせよ。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁(被告)

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告らは、いずれも別紙物件目録一記載の建物(以下「本件建物」という。)の中に区分所有権の対象となる区分建物を所有している。

2  被告は、本件建物の一階ピロテイ部分一六四・七二平方メートルにつき別紙物件目録二記載の建物として(以下「本件車庫」という。)請求の趣旨1記載の所有権保存登記をした。

3  しかしながら、本件車庫は、以下に述べるとおり、構造上及び利用上の独立性をいずれも具備しておらず、建物の区分所有等に関する法律(以下「法」という。)第三条第一項にいう「構造上区分所有者全員」「の共用に供されるべき建物の部分」(いわゆる法定共用部分)に該当し、原告らを含む本件建物の区分所有者全員の共有に属するものであつて、区分所有権の目的とならない。

(一) 本件車庫は、本件建物の一階東北端のピロテイ部分を利用したものであつて、南側及び北側はいずれも壁面で仕切られているが、東側及び西側はいずれもシヤツター・扉等外界と区別する何らの設備も有しておらず、排他的な支配をなすことはできない。

(二) 本件車庫の地下には、原告らを含む本件建物の区分所有者全員の共有に属する下水浄化槽が設置されており、その清掃及び監視用として、本件車庫の下面に一〇数個のマンホールが設けられているが、それを利用するためには本件車庫の内部に入つて作業しなければならず、下水浄化槽の保守・管理という観点からすれば、利用上の独立性を欠くというべきである。

(三) なお、本件車庫は、本件建物完成当初、その区分所有者らの無償使用に委ねられていたが、利用希望者が増加したので、公平をはかる意味で、本件建物の管理者であつた訴外日本建物管理株式会社が、利用者から駐車料金を徴収し、これを管理費用に充当してきたものであつて、現在は原告らを含む本件建物の区分所有者らを構成員とする訴外日吉第三コーポ管理組合が右事業を承継している。

4  よつて、原告らは被告に対し、本件車庫の共有持分権に基づき、請求の趣旨1記載の所有権保存登記の抹消登記手続を求める。

二  請求原因に対する認否

(被告)

1 請求原因1及び2の事実は認める。

2 請求原因3の事実は否認し、本件建物が区分所有権の目的とならないとの主張は争う。

(被告補助参加人)

(一) (構造上の独立性の具備)

区分所有権成立の要件である構造上の独立性は、単に物理的な観点からのみ判断されるべきものではなく、建物の用途や社会的必要性等をも考慮に入れて、総合的に判断すべきところ、本件車庫は、南北の二側面が壁面によつて仕切られ、西側は本件車庫に接続している廊下との間を固定柵によつて遮断されており、また、天井は鉄筋コンクリート、床はコンクリートであつて、物権的支配の及ぶ範囲は明確に特定されており、東側は、本件建物の敷地を経由して公道に通じている車輛の出入口であるから、この東側に遮閉物が設置されていないからといつて、構造上の独立性がないとはいえず、かえつて排気等を考慮すると、むしろ遮閉されていない方が車庫としての用途に合致すると考えられるから、結局本件車庫は排他的な支配が可能というべきである。

(二) (利用上の独立性の具備)

区分所有建物の存する建物においては、共用の、あるいは、ある区分所有建物の給排水管等の設備の保守又は修理の必要上、他の区分建物に立ち入る場合があること、本件マンホールは常時又は頻繁に使用されるものではないこと、及び本件車庫は住居ではなく駐車場として使用されるものであることを考慮すると、浄化槽及びマンホールの存在の故をもつて、本件車庫の利用上の独立性を否定すべきではない。

(三) なお、本件車庫は、本件建物完成当初より、区分所有建物として被告が所有し、区分所有者の一部にこれを賃貸し、その賃料は被告の収入としてきたものであつて、これに対し貸借人はもとよりその他の区分所有者から何ら異議を出されなかつたものである。

第三証拠<省略>

理由

一  請求原因1及び2の事実は当事者間に争いがない。

二  成立に争いのない甲第二ないし第四号証、原告主張どおりの写真であることに争いがない同第六号証及び検証の結果並びに原告仲田進二本人尋問の結果を総合すると、次の事実が認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。

1  本件建物(通称日吉第三コーポ)は、別紙物件目録一記載のとおり七階建、一階床面積一二五一・九八平方メートル、延床面積七九四八・九三平方メートルの共同住宅であつて、約一九〇の居室が存し、その東側半分がA棟、西側半分がB棟と呼称され、本件車庫は、右B棟一階の東北隅に位置し、床面積一六四・七二平方メートルで、東西七・三五メートル、南北二三・一六メートルの長方形をなしている。B棟一階には北出入口及び東出入口が、A棟一階には北出入口が存し、AB両棟の中央に正面出入口が存し、A、B両棟の区分所有者は本件車庫を通過することなく、本件建物からの出入が可能である。

2(一)  本件車庫の北側は、本件建物のコンクリートの北外壁が外壁をなしていて、外部と完全に遮断されており、南側はこれに接する変電室及び車庫の壁が外壁をなしており、南側も外部と完全に遮断されている。

(二)  本件車庫の西側は、右南側の壁と北側の壁との間に三本のコンクリートの柱が設けられ、これらの壁及び柱の間には、両端を壁、柱に、下端をコンクリート床に固定された高さ一・三メートルの鉄柵が設置され、西側に接する廊下と区分されている。右鉄柵は、上枠が幅五センチメートルの鉄板、下枠がそれより多少細めの鉄板で製作されており、両者の間を、一〇センチメートル間隔に並んだ直径一・三センチメートルの鉄棒が接合されている。右鉄柵の南端より一・九八メートルのところに幅約六二センチメートルの片開き式鉄扉が設けられ、本件車庫と西側廊下の連絡通路となつている。

(三)  東側には幅約八〇センチメートル前後の柱が三本設けられていて、これらの柱相互の間及び柱と南北の壁面の間隔は、最大で七メートル、最小で三・一メートルであるが、その他の柵、壁等の遮断設備は一切設けられておらず、車輛は、本件車庫の東側の幅約四メートルのコンクリート舗装部分及び一階ピロテイ部分のみを通つて、公道に出入することが可能である。

(四)  本件車庫の床面は、コンクリート舗装で、九区画に区分され、各区画は普通乗用自動車が駐車しうるスペースが確保されている。なお、床の南端幅員二メートル部分は、現在オートバイ・自転車及び廃物等が置かれているが、この部分も駐車スペース二区画の表示がされている。

(五)  本件車庫の床面の北側部分には合計一二個の丸型マンホール(直径〇・三ないし〇・六メートル)と角型マンホール(一メートル角)が設置されており、右角型マンホールの内部には浄化槽で浄化された水を下水道に流し込むための二基の水中ポンプが設けられ、また、右角型マンホールの入口付近には穴底に達する鉄梯子及び電線が取り付けられている。

(六)  本件車庫の天井は、コンクリート製であり、その西側半分には直径一二センチメートル、七又は九せンチメートル、五センチメートル、三・五センチメートルの四種の布巻パイプが取り付けられ、これらは順に汚水排水管、雑廃水排水管、水道管、ガス管として使用されているものであり、西側寄りには合計一二本の蛍光灯の照明設備がある。

また、前記西側の三本の柱と北壁の西端から約一・一メートルのところにパイプスペースが設置されており、この内部に前記パイプ類が収納されて地下に通じており、そしてパイプスペースに取りつけられた鉄製窓を開けることによつて、内部のパイプを点検することが可能である。

三  ところで、法第三条第一項所定の「構造上区分所有者の全員」「の共用に供されるべき建物の部分」とは、構造上及び利用上の独立性をもたない建物の部分をいうものと解すべきであるから、先ず右に認定した事実に基づき、本件車庫が本件建物の中で構造上の独立性を有するかどうかを検討するに、本件車庫は、南側及び北側がいずれもコンクリート壁で仕切られ、西側は、三本の柱及び鉄柵が設置されていて、右鉄柵は下部及び両端を恒久的に固定された耐久性ある設備であつて、高さも約一・三メートルあるから本件車庫の西側に接続する廊下との境界は明確に区分されていると認められ、また、東側は、扉又はシヤツター等による仕切りの設備は設けられていないが、三本の柱及び天井部分によつて、外部との境界を認識することは可能であり、むしろ車輛の出入りが頻繁に行なわれる車庫としての性質上、一面を開放することは用途に適合するといえるのであり、以上の四囲の状態のほか、本件車庫の前示天井及び床の構造をも斟酌すれば、本件車庫は構造上の独立性に欠けるところはないものというべきである。

次に、本件車庫が利用上の独立性を有するかどうかについて検討するに、前認定のように、本件車庫は、その大部分のスペースが駐車場として使用されており、現在オートバイ、自転車及び廃物等が置かれている部分も、本来は駐車場として予定されていたものであり、また、本件車庫は、これから本件建物の外部に出て直接公道に出入することが可能であり、他方、本件建物の区分所有者は本件車庫を通過することなく本件建物から出入することができる構造となつており、さらに本件車庫の車輛収容能力は、原告らを含む本件建物の区分所有者の数に比して圧倒的に小さく、このことに端的にあらわれているように、車庫は区分所有者にとつて有用ではあるが不可欠というほどのものではない、等の諸点に照らすと、本件車庫は利用上の独立性にも欠けるところはないものというべきである。

もつとも、前記認定(二2(五))のように、本件車庫の床及び地下には、マンホール等浄化槽関係の設備が設けられているが、これらは常時使用されるものとはいえず、通常は定期的な点検の際に使用されるにすぎないと考えられるから右結論を左右しうるものとはいえない。

四  なお、原告仲田進二本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第五号証によれば、原告仲田進二の妻の実父である訴外管井義郎と訴外株式会社日本建設協会との間の本件建物中の区分建物の売買契約書には、売買対象の「物件の表示」中に「其の他の設備」として、駐車場が掲げられているが、このことは、本件車庫が法第三条第一項所定の法定共用部分に当たるかどうかの判断を左右する事実ではない。

また、証人中島唯康の証言により真正に成立したものと認められる甲第八号証、原告仲田進二本人尋問の結果によりいずれも真正に成立したものと認められる甲第一一、一二号証、証人中島唯康の証言(但し後記措信しない部分を除く。)及び右原告本人尋問の結果を総合すると、昭和四〇年一二月本件建物が完成した直後ころにおいては、本件車庫は一部の入居者の自由使用に委ねられていたが(この点に関する証人中島唯康の証言は採用しない。)、利用者が増加したため、半年ほど経過した時点で、当時本件建物の管理を担当していた訴外日本建物管理株式会社が付近の空地を一括して賃借し、本件車庫に収容しきれない車輛を駐車させ、これらの利用者より賃料を徴収して右空地使用料その他に充当したこと、昭和四六年初め右訴外会社が破産宣告を受けて混乱を生じたため、賃借人であつた区分所有者らが同年六月訴外日吉第三コーポ管理組合を結成し、右訴外会社の事業を承継して自主管理し始め、以後現在に至るまで右組合が利用者より駐車料金を徴収して、本件建物の修繕その他の共益費用に充当してきたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

しかしながら、右の本件車庫の管理及び利用に関するこれまでの経緯は、本件車庫が本件建物の法定共用部分に該当するかどうかの判断を左右するものではないから、この点に関する原告の主張は採用できない。

五  以上説示してきたところにより、本件車庫が原告らの共有に属することを請求原因とする原告らの本訴請求は理由がないことが明らかであるから、これをいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 柴田保幸 榎本克巳 加藤幸雄)

物件目録一

所在 神奈川県横浜市港北区日吉本町二〇九六番地一、二〇九六番地三、二〇九七番地一、二〇九七番地三

構造 鉄筋コンクリート造陸屋根七階建

床面積 一階一二五一・九八平方メートル 二階一二五七・二三平方メートル 三階一二五七・二三平方メートル 四階一二五七・二三平方メートル 五階一二五七・二三平方メートル 六階一二二四・八七平方メートル 七階四四三・一六平方メートル

物件目録二

物件目録一の建物の専有部分の建物の表示

家屋番号 二〇九六番一の一〇二

種類 車庫

構造 鉄筋コンクリート一階建

床面積 一階部分 一六四・七二平方メートル

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